― 力作ですね。山口組を通して見た日本社会史で、とても面白く読めました。ベストセラーの『突破者』と並ぶ代表作だと思います。
■ 取材に5年ぐらい掛かっているからね。話を聞いた人も100人は超えている。ヤクザというものに、僕なりの結論をつけようと思って書いたから。学生時代は左派的なものにとらわれて見えなかったものもあったが、今の視点は全然違う。そこで山口組というプリズムを通して日本の近代史を見たらどうなるか、と考えたわけだ。
― 発生論では、近代ヤクザは、沖仲仕のような港湾荷役を担当する労働組織から生まれたということですね。
■ そう。ヤクザはイデオロギー集団じゃなく生活共同体だった。社会の最下層の人たちが、生きるために親分の下に集まって生まれた。港湾荷役は、不熟練労働者を集めた人材派遣業みたいなもので、ヤクザのような強い統率力が必要だった。山口組もそうした一つで、地域という「ムラ」に根ざした共同社会型ヤクザだった。
― そんな共同社会型から、高度成長とともに利益社会型ヤクザに変化していく時、山口組には先見性と経営者としての才覚がある田岡一雄というカリスマがいたわけですね。
■ 田岡3代目は、貧困と差別でドロップアウトして自分の下に集まってきた男たちを、どう食わせるかを考えた。組員に正業を持てと勧め、それが港湾荷役と芸能興行の企業だった。日本経済が高度成長を迎え、それらの業種からヤクザが追い立てられると、今度は企業社会の「負のサービス」に進出する。企業という「ムラ」社会のすき間に活路を見いだした。
― ヤクザは経済社会の「負のサービス」を担当している、と書かれていますが、面白い考え方です。
■ 近代ヤクザは創設時から経済と密接している。企業社会になっても裏の世界にはニーズがあった。総会屋、整理屋、取り立て屋、サルベージ屋などだ。民事介入暴力、同和利権などの利権にも食らいついた。山口組はこれらの新しい生業をいち早く取り入れた。今だってヒルズ族がもてはやされているが、かつての人材供給に代わって、今はカネそのものを供給するようになっただけ。誰のカネか分からんカネが投資に動いているじゃないですか。
― でも国も取り締まりを強化し、新法でたたいた。それでも山口組は生き延び巨大になった。なぜでしょうか。
■ ヤクザは、生きるために自らを権力とするしかない集団だ。国家権力がつぶそうとすれば、生き残るためにすき間に逃げ込む。小さな組はつぶされても、山口組はその組員を吸収して大きくなる。格差社会の今、ニートやネットカフェ難民などの下層社会はすでにできていて、仕事を持ってきてくれるヤクザがいれば、多少やばいことでもやるやつは必ずいる。実働部隊のフリーター化・派遣化だ。近代ヤクザはいなくなったが、こういうヤクザはなくならないと思う。
(聞き手=長倉正知・毎日新聞情報調査部)
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